お問い合わせ

2段階ベントによるバッテリー用筐体の保護

ドナルドソンIVS製品開発マネージャー Jake Sanders

電気自動車とハイブリッド自動車の成長に伴い、リチウムイオンバッテリーは自動車の世界でますます重要な役割を果たしています。 充電式バッテリーは、単位体積あたりのエネルギーの割合が高く、効率良くパック状に配置して車両の動力源とすることができます。 家電製品で使用される小型のリチウムイオンバッテリーとは異なり、車載用リチウムイオンバッテリーは、温度と圧力変動のための適切なベントと、過酷な外部条件からの堅牢な保護が不可欠です。

2段階筐体保護ベントは、車載用バッテリーのニーズを満たすことが証明されています。 1段目では、水や汚染物質の侵入を防ぎながら圧力を平衡化します。 2段目のベントは、急な加圧と発熱があった場合に全開になり、膨張したガスを逃がし、他のバッテリーへの損傷の拡大を防ぎます。 ほとんどの場合、1つのベントアセンブリーで両方の機能を実行できます。

筐体保護ベントが必要な理由
図1: 自動車のバッテリーパックには数百個のバッテリーが搭載されている場合があります。

バッテリー用筐体は通常、金属製またはプラスチック製の外殻で密封されており、埃や破片、雨、雪、洗車スプレーによる湿気からバッテリーを保護するように設計されています。 これらのエレメントのいずれかがバッテリーや付属電子機器に損害を与える可能性があるため、効果的な筐体を使用して、害になる可能性のある物質からバッテリーを守ります。 図1に示すように、電気自動車用のバッテリーパックでは、複数のモジュール内に数百個のバッテリーが搭載されていることがあります。

バッテリー用筐体は汚染物質を排除することに加えて、筐体内部と周囲の大気の圧力差を処理する必要があります。 周囲の温度変化、バッテリー内の発熱、大気圧の変化により、圧力差は通常の車両運転中に大きく変動することがあります。 自動車に乗っている人が山岳地帯を走行するときに「耳がキーンとなる」状態になることがあるように、バッテリー用筐体は標高の変化によって同様の圧力変動を感知します。

保護シェルが壊れたり傷ついたりしないよう、筐体のベントを使用して内圧と外圧を平衡化し、「熱暴走」と呼ばれる急速な圧力上昇により生成されたガスを排出する必要があります。 圧力が徐々に蓄積された場合も、急激に蓄積された場合も、シールに応力がかかり、漏電や爆発につながる恐れがあります。

ベントの具体的な効果については、リチウムイオン車載用バッテリーの内部を確認すると理解が深まります。 バッテリーパックは通常、互いに固定された2つのセクションから成り、ガスケットで接続部分が密封されています。 筐体のベントが不十分である場合、筐体で複数の小規模な圧力差が発生すると漏電が起こる可能性があります。 電気自動車メーカーが8年間の保証を提供することもあるため、バッテリー用筐体の耐久年数はそれ以上にすることができると考えられます。 適切なベントを使用すると、シールへの圧力差が発生する回数を減らして、その程度を軽減し、シールと筐体の寿命を延ばすことができます。

第1段階のベント
図2: 左の図はロール状のePTFEメンブレンで、右の図は走査型電子顕微鏡(SEM)で5000倍に拡大したものです。汚染物質の侵入を保護しつつガスを通過させることができます。

パッシブベントとも呼ばれる第1段階のベントは通常、圧力を平衡化して筐体に汚染物質が入るのを防止する延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)ベントによって行われます。図2に示されているようなePTFEメンブレンは、肉眼では不透明に見え、水、埃、溶剤、その他の汚染物質の侵入から保護します。 一方で、メンブレンの1ミクロン未満の開口部からガスが通過し、圧力が平衡化されます。

予想される汚染物質への暴露の種類に応じて、さまざまなレベルで異物や湿気から保護できるようベントを設計できます。 典型的なバッテリー用筐体は、埃、水没、高圧水噴霧から保護し、最大690ミリバールの圧力の水を制止するように設計されています。

図3は、第1段階のベントによる圧力差の減少の様子です。 寒い日に車を発進させ、高速で走行させた場合の大まかなシミュレーションによると、60分間で50°Cの温度上昇にさらされたバッテリー用筐体は、ベントがない場合最大180ミリバールの圧力差にさらされます。 50 mm径のベントアセンブリーを備えた筐体では、圧力差を10ミリバール未満に抑えることができます。

図3: 第1段階のベント(パッシブベント)は圧力差を大幅に減らすことができます。
第2段階のベント

第1段階のベントは段階的な圧力変化を処理しますが、熱暴走による急激な圧力の増加を処理できない場合があります。 アクティブベントとも呼ばれる第2段階のベントは、このような状況に対応するよう設計されています。ベントが完全に開いて急速に膨張するガスを制御しながら放出し、残りのバッテリーのさらなる損傷や筐体自体の突発的な爆発を防ぎます。

第2段階のベントは多くの場合、ePTFEメンブレンと一体化した機械的機能を備えており、ePTFE材料が受動的に平衡化できない速度でガスが膨張するような熱による現象が発生した際に、迅速な脱気が可能となります。 ベントは基本的に、ガスや高温が急速に発生する熱暴走の発生時に、筐体に壊滅的な障害を引き起こすような過度の圧力がかかることを防ぎます。

4は、パッシブベントシステムとアクティブベントシステムを組み合わせて筐体の破裂を防ぐ様子を示しています。 1,500ミリバールの圧力まで耐えられる筐体には、500ミリバールで開くアクティブベントシステムを装備することができます。 このシステムの組み合わせにより、圧力差が約750ミリバールに制限され、破裂が起こる圧力を大幅に下回ることになります。 ベントがないと、筐体はすぐに破裂してしまいます。

図4: 第2段階のベント(アクティブベント)とパッシブベントを併用することで、筐体の破裂を防ぐことができます。

第2段階のベントを組み込むには、設計者はガスの放出速度とベントが完全に開く圧力を考慮する必要があります。 圧力を爆発圧力以下に保つようにベントを設計する必要があります。爆発圧力は基本的に、筐体が破裂することなく処理できる最大圧力です。

もう1つの設計上の考慮事項は、筐体の塑性変形(形状の不可逆的な変化)を引き起こす可能性がある圧力です。 これにより、筐体に望ましくない損傷が生じますが、これは必ずしも安全上の問題とはなりません。 金属製の筐体の場合、爆発圧力よりも大幅に低い圧力で塑性変形が起こります。 プラスチック製の筐体の場合、爆発圧力に近い圧力で塑性変形が起こります。 したがって、適切なベント設計を行うには、筐体の材質の違いを考慮する必要があります。

熱暴走が発生した場合、バッテリーの修理や交換が必要になります。 第2段階のベントでは、バッテリーの寿命ではなく安全性に重点を置いています。 ガスを排出して熱を軽減し、有害化学物質を徐々に拡散させて高濃度の雲を防ぎ、爆発の原因となりうる飛散した破片を防ぐ必要があります。

まとめ/結論

電気自動車を発進させる主要な手段となるリチウムイオンバッテリーでは、適切なベントが最も重要となります。 適切に設計されたベントシステムは、通常の運転状態での圧力の平衡化と汚染物質からの保護を実現し、筐体とバッテリーの寿命を延ばします。 また、バッテリーが高温になっていて、湿気やごみからの保護がそれほど重要ではないというまれなケースでは、爆発やその他の壊滅的な結果を回避するため、ベントシステムで即座に圧力を除去できる機能を備える必要があります。 2段階のベントシステムを使用することは、自動車のさまざまなベントのニーズに対応するうえで非常に重要です。

ドナルドソン製品について、お気軽にお問合せください。

Jake Sandersは、ドナルドソンのIVSチームの製品開発マネージャーです。 ミネソタ大学でBSMEを取得し、セントトーマス大学でMBAを取得しています。 ドナルドソンのIVSグループで12年の経験を持ち合わせており、自動車、モバイル電子機器、医療、センサー、ハードディスクドライブ、半導体のフィルトレーション、ベント市場の分野でサービスに従事しています。
Close